02 料理人
今日は恋人の誕生日。
「サンジーおめでとー!!」
「サンジおめでと!!」
「サンジ君おめでとー」
「コックさんおめでと」
朝からクルーにおめでとうと言われこいつはぽか
んとしてカレンダーを見てああ、とでも言うように一
人で頷いて照れ臭そうに「ありがとう」と言った。
どうやら忘れていたらしい
「サンジー今日はパーティだぞー」
「え?あー…はいはい」
何故か祝う方に急かされコックの誕生日会と言う
名の宴を開いて男三人がつぶれて女共が部屋に
戻ったのが数十分前。
自分のパーティなのに女に給仕し続けたこいつも
給仕する相手もいない今座り込んで空を見て酒を
飲んでる
「コック」
「ん?」
「おめでとう」
「……ありがと」
そこら辺に転がってた誰かの飲みかけの酒瓶を
もってコックの隣に座る。
こう見えて結構一人になると静かなこいつは今何
を考えているんだろう
「俺のさ、誕生日って」
「ん?」
「本当は今日じゃないんだよな」
「え」
「ジジイが付けたの、」
知ってるだろうけどジジイは本当の親じゃねえよ?
そう笑って一人で喋りだした
そんな顔は少し寂しそうでちょっと心配になった
俺、何で生まれたんだろうって思ってた
生まれてすぐに親に捨てられて拾ってくれた料理
長の船で働かせてもらって。
そのおっさんはすごくいい人でその時はその生活に
なにも疑問はなかったんだ
でも遭難して、二ヶ月半。
なんでこんな目に俺が合わないといけないんだろう
って思ったしそもそも俺は捨てられた身なんだって
ことをなんか改めて感じさせられて
「すげー惨めだった」
そういうと両手で自分の顔をおおってしまった。
泣いてるのか、とか思ったけど頬は濡れてないから
大丈夫だろう
でさ、元々働いてた料理長からサンジって名前もら
ってそれだけが俺自身の持ってたもの。
それ以外何もなくて。
本当に俺なんで生きてるのかなって思ってた
でもジジイと共にある船に助けられて85日間一緒
だったのに最後の方しか話せなかったジジイと始
めてちゃんと話したんだ。
「なんで生まれたんだろうって言ったらジジイに言
われたんだ。料理人は人を幸せにできる仕事なん
だって。だったらそのために生きていけって」
「……そうか」
「だから俺は人を幸せにするために生きていくしか
ないなーって思ってよ。それが3月2日。ジジイが本
当のお前が生まれた日だって言ってくれてよ。
9年前かー…」
きっとこいつはこの海の繋がるあのレストランを頭
に浮かべているのだろう
でも今こいつの中身の根本的なものが見えた気が
した。
"人を幸せにするために"
なんともこいつらしいって今なら思える
でも、なにかが違う
「おい」
「ん?」
「"しか"じゃねえ」
そうだ。
こいつはいつもそうだ。人の事しか考えてない
「自分のことも考えろ、バカ」
「は?」
「俺たちの幸せだけじゃなくて、てめえの幸せも考えろ」
「………」
するとこいつは元々大きい目をさらに見開いてこちらを
見る。ぶっちゃけめちゃめちゃガキみたいな顔してるが
これは言わない方が良いだろうな
「……ははっ」
「んだよ」
「それはお前がしてくれるだろ?」
俺はみんなを幸せにする。
料理人だから。
お前ら俺を幸せにしてくれるだろ?
俺の恋人だから。
END
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